数学の答案のエチケット(5)

14歳の頃から24歳くらいまで、数学の先生をしていました。

当時は、
「数学を勉強しているんですが、点数がのびないんです」
のような質問を、よく受けていました。

1時間勉強して10点だった。
じゃあ、2時間勉強したら20点になる?

そんなわけはありません。

数学の答案では、「自己紹介」と「志望動機」を表現すべきです。
その質が変わらないならば、いくら勉強しても、ほとんどが無駄なんです。

ドラッガーが面白いことを言っています(創造する経営者)。

「業績の90%が業績上位の10%からもたらされるのに対し、
 コストの90%は業績を生まない90%から発生する。」

「資源と活動のほとんどは、
 業績にほとんど貢献しない90%の作業に使われる。」

数学の勉強をみていると、
ほとんどの人は、貴重な時間を「正解」を導くことに費やして、
採点者に伝えるべきものを表現するための努力をしていないように思えます。

私は、それを残念に思ってます。

10分でもいいから、自分が書いた答案を読み直してみて。
自分の「想い」が出ていない部分を削除して、自分の「想い」を書きなおしてみる。

点数は、変わらないかもしれない。
だけど、それだけで、自分が大切にしているものが見つかるかもね。

どっちがいい?
一つは、100問「正解」を出せたけど、101問目は解けるかどうか分からないっていう不安とのたたかい。
もう一つは、たった1問なんだけど、その答案で、自分の「将来に向けた想い」を伝えた、という感動。

私は、答案で「自己紹介」と「志望動機」を表現して、そんな感動を味わうことができたよ。

最近は、高校生に、そんなことを伝えています。

数学の答案のエチケット(4)

はっきり言って、簡単な問題でも、きちんと差は出る。

じゃあ、大学が、難しい問題を出題する理由は、何だろう。

一つは、難しい問題の方が、落ちた受験生が納得しやすいってこと。
先の問題でも、多くの受験生は、実際には2点の評価なんだけど、5点とったと勘違いしている。
難しい問題であれば、そういうのを説明する手間が省ける。

あと一つは、難しい問題であれば、受験生の「自己紹介」だけでなく「志望動機」も見えること。
簡単な問題だと、受験生の「過去」で解けちゃう。だから、受験生の「将来」が見えにくい。
難しい問題だと、受験生が「過去」を踏まえて、新たな視点を設定する。だから、受験生の「将来」を評価しやすい。

数学の答案で表現すべきは、受験生の「過去」と「将来」。
具体的には、「自己紹介」「志望動機」だ。
「正解」が書かれているか、なんてのは、どうでもいい。
だって、入試問題なんて、採点者からすれば「正解」があるのは当然だから。そんなの書いても、評価されないよ。
採点者が知りたいのは、どちらかといえば、問題を見出す能力だ。

「自己紹介」と「志望動機」を表現してない数学の答案は、ゴミでしかない。

簡単な問題だと、「自己紹介」の比重が大きくって、「志望動機」が見えにくい。
難しい問題だと、「志望動機」の比重が大きくなる。将来何がしたいんだ、ってこと。

大学が難しい問題を出題するのは、その人の「将来」を知りたいっていうメッセージだ。

じゃあ、受験生として、そのメッセージに、どのように応えるんだ?

数学の答案のエチケット(3)

こういうとき、うまく使うといいのが「別解」。

まず、「解の公式」を利用して解くことで、論理性をアピールする。
ここで、「解の公式」の導出を記載して、暗記しただけっていう批判をかわす。

で、別解として因数分解を使って解くことで、他の人たちに負けないようにする。

あとね。コンピュータ系の学部やら、数学科やらを目指すのであれば、アルゴリズム的な別解を書いた方がいい。
グラフをちょちょっと書くだけでオッケー。
別解は、加点を狙うだけだからね。時間の無駄は排除する。

というのは、因数分解や解の公式を利用するのは、「集合数」をベースにしたアプローチ。
ただ、実際のシステムでは、「順序数」をベースにしたアプローチが、近似解だけど使用されている。
だから、別解として「順序数」をベースにしたアプローチを示しておくと、自身の数学全体での体系的な理解を示すことができるんだ。

そうすると、こんな感じになる。
このくらいだったら、上位5%くらいに入る感じ、かな。

説明したら、「こんなの、自分でもできる」っていう感じだろう。
だけど、それを書くのって、本当に難しいんだ。

数学の答案のエチケット(2)

数学の答案では、一般的には論理性が問われます。

論理性と言えば、三段論法。
大前提、小前提、結論、ってやつ。

大前提は、一般的に成り立つもの。例えば、「人は死ぬ」ってこと。
小前提は、今回の事案に関連するもの。例えば、「ソクラテスは人である」ってこと。
結論は、大前提に、小前提をあてはめたもの。「よって、ソクラテスは死ぬ」ってこと。

先の問題でいうと、全部で5点だったら、だいたい次のような配点になるでしょう。
答えが合ってるのは、「小前提」の評価に含めるでしょうね。

それで、先ほどのみんなのメモを採点したら、大前提がない。
つまり、この問題を離れて、一般的な抽象論が無い。
そうすると、採点したら、2点くらいになる。

自分では5点とっているつもりだけど、実際には2点しか取れていない。
残念だけどね。

数学では、このような自覚なく落としている点数って、実は多い。

そういう観点からすると、「解の公式」を利用した答案の方が、評価は高いだろう。

ただ、油断しちゃいけない。
このように書いても、「解の公式を暗記しただけだろう」って批判がある。
だから、この答案では、大前提の部分は満点でない。
そうすると、トータルでは、せいぜい3点かな、って感じ。

こんな問題、ふつうは簡単だと思うだろうけど、きちんと解くのは難しいんです。

数学の答案のエチケット(1)

最近、高校生に講義する機会が増えてきました。

まぁ、私は男子校出身だから、恋愛のエピソードなんて、まるで無し。

高校生の頃は数学ばかりしていたので、自然と数学の話になっちゃいます。
例えば、こんな話です。

まず、3分くらいで次の問題を解いてもらいます。

まぁ、高校生だったら、9割くらいの人が余裕で解いちゃいます。

ただ、こんな感じのメモのようなコメントばかり。

で、6割くらいが「こんな問題、解かせやがって。時間の無駄だ」と。
イカリのモードで、私をにらんでます。

ただね。こういう問題って、本当に差が出るんです。

今回は、そういうお話です。