「相違点」という言葉について、2種類の意味で使われているために、混乱があると思う。
一つは、新規性評価で、「一致点」ではないという意味で「相違点」という用語を使っている。
もう一つは、相違点評価の対象という意味で「相違点」という用語を使っている。
新規性判断では、一致点でない部分である「相違点」があれば、新規性があり、進歩性判断になる。
相違点評価の対象となる「相違点」は、原則として発明全体。
例外的に、「単なる寄せ集め」の場合だけ、部分的な発明の特徴が対象になる。
この2つが混乱すると、新規性と進歩性の判断が混乱してしまいます。
この事例で、相違点評価の対象となる相違点を「消しゴム」という部分にしたんだから、
論理付けでは「単なる寄せ集め」に触れた方がいい。
出願人は、意見書などで「鉛筆」と「消しゴム」の機能的又は作用的な関連を主張することができる。
この意見が妥当であれば、進歩性判断での相違点認定の瑕疵となり、拒絶理由通知が違法になる。
そうすると、審査官は、最初の拒絶理由通知として、動機付けルートで起案することとなるだろう。
例えば、「前記消しゴムは、・・・前記鉛筆の後ろの端に取り付けられる」という点について、
請求項に記載されているが、進歩性判断において検討されていないこと、を主張したとする。
しかし、これだけでは、主張として不足している。
この記載が、「鉛筆」と「消しゴム」の機能的又は作用的な関連を特定していることの主張が必要だ。
通常は、この記載は、機能的にも作用的にも関連していることを示すものとは認められないだろう。
そのため、リパーゼ判決によれば、今の請求項の記載では、機能的・作用的な関連を主張することは難しいだろう。
進歩性を肯定するための主張をするなら、少なくとも請求項の補正は必要だろう。
そして、機能的・作用的な関連が特定されれば、
補正後の請求項に対して、審査官は、特許査定か、最後の拒絶理由通知か拒絶査定で、動機付けルートでの起案をするでしょうね。
いわゆる「容易の容易」って、通常、こういう意味で使われていた。
つまり、「相違点」が機能的・作用的に関連しているのに、個々に、部分的に、独立に相違点評価がなされている場合だ。
そういう場合には、相違点認定及び相違点評価の瑕疵になる、という意味でつかわれていた。
「容易の容易」って、基本的に動機付けルートの場合に問題になるので、例えば周知技術の付加などでは問題にならない。
周知技術の付加等のルートは、主引用発明に「ゼロ」を足すようなもの。
ゼロをいくら足しても、ゼロだからね。「容易の容易」なんて考えは出てこない。
だから、「『容易の容易』なんて概念はない」という意見も、妥当といえば妥当。
ただ、慣習的に、このような意味で使用されていると思う。
この「容易の容易」は、現行の審査基準では、進歩性のところに規定がない。
日本の審査基準では、新規性・進歩性の前提である発明の成立性のところで、発明を「全体として」検討する、というところに根拠を求めざるを得ないだろう。
まぁ、PCTガイドラインを使って主張するのが、妥当なのかなぁ、とは思うけど。
あと、相違点評価では、一致点認定なんて不要だ、という審査官もいた。
原則として、相違点評価の対象は発明全体なんだから。
だけど、新規性あり、という根拠のために書いている場合もあるし、
周知技術の付加などの論理付けでは、一致点が重要な役割を果たすから、
一致点を認定すべき場合はあると思う。
シンプルな事例だけど、きちんと新規性/進歩性を議論するのは、本当に難しいんですよね。