【新規性と進歩性】3-5.進歩性(追記)

新規性と進歩性の判断は、本当に難しい。
指導審査官は、次のように言ってた。

「進歩性判断では、
 当業者が『当たり前だ』と思うものを排除できれば、
 何とか審査にはなるんじゃないか。」

一見すると「審査官って、楽だよね」と思えるかもしれない。
だけど、この言葉は、本当に深い。

いい特許は、どうしても「当たり前」に見える。
だから、審査官は、いい発明に対して、ダメ出しをしてしまいがち。
こんな審査は、いらない。

他方、文献調査で難しいのは、当業者にとって「当たり前」のものだ。
「当たり前」のものは、文献に記載されないから、見つからない。

それを見極めるのは、本当に大変だ。

私は、ある案件で、4万件、調査した。
それで、ようやく、先行技術文献が見つかった。

また、どんなに探しても、見つからないこともあった。
そういうときは、「ごめんなさい」という想いしかない。

確かに、「当たり前」のものは、特許査定にせざるを得ない場合がある。
だけど、そういうものこそ、審査段階で拒絶しないと、みんなが困るんだ。

その自覚は、本当に大切だと思う。

【新規性と進歩性】3-4.進歩性(事例2)

じゃあ、仮に、次のように請求項1の記載が補正されたら?

[請求項1](補正後)
 光を発する発光部と、
 本のページの間に挿入されるしおり部を備え、
 前記しおり部は、前記発光部が発光するときに前記発光部を支える、ライト付きしおり。

こうなると、「ライト」と「しおり」との間に、機能的な関連が認められるので、「単なる寄せ集め」の論理付けは使えない。
そして、引用発明1と引用発明2では、動機付けルートでも論理付けは無理だろう。
そのため、補正後の本願発明は、引用発明1及び引用発明2に対して、進歩性が認められる。

補正後の特許請求の範囲で、特許査定になるかは別問題。
「しおり」は、通常、薄い形状だ。
そうすると、「支える」なんて機能はできない。
そのため、実施可能な程度に特定できていないため、記載要件違反になるだろう。

【新規性と進歩性】3-3.事例2

続いて、進歩性の判断。

まずは、主引用発明を決める。
請求項1では、「ライト付きしおり」としていて、末尾は「しおり」だ。
そうすると、技術分野は、引用発明1の「しおり」が同じ。
そのため、引用発明1が、主引用発明になる。

次に、一致点と相違点を認定する。
本願発明と引用発明1を対比すると、「しおり」で一致し、「ライト」で相違する。
そのため、一致点は「しおり」、相違点は「ライト」となる。

そして、相違点評価だ。
引用発明2は、「ライト」を開示する。

そして、論理付け。
本願発明の「しおり」と「ライト」は、請求項1の記載によっては機能的にも作用的にも関連が認められない。
そのため、本願発明は、引用発明1と引用発明2という先行技術の「単なる寄せ集め」に該当し、進歩性が認められない。

今回は、「しおり」と「ライト」では、技術分野は違うし、課題も、機能・作用も共通性がない。
だから、動機付けルートは、難しい。

【新規性と進歩性】3-2.事例2

新規性判断では、本願発明と引用発明とを比較する。

・本願発明と引用発明1を対比すると、「ライト」の構成要件で相違する。相違点があるため、新規性あり。
・本願発明と引用発明2を対比すると、「しおり」の構成要件で相違する。相違点があるため、新規性あり。

よって、引用発明1及び2に対し、本願発明は、新規性が認められる。

・・・本当に?

では、こうしたら?

引用発明2は、発光部としおり部がある。

よって、本願発明と引用発明2は、構成要件が一致するため、新規性なし。

さすがに、これはダメ。
これは、「後知恵」といわれるもの、だね。
引用発明2の認定の瑕疵で、違法な拒絶理由になる。

こういう「後知恵」が起きやすいのは、本願の請求項1で、しおり部が機能的に特定されているから。
こういう場合には権利範囲が広くなりがちで、審査官は「後知恵」での判断をしがちだ。
気をつける必要がある。

【新規性と進歩性】3-1.事例2

では、次の事例。

「ライト付きしおり」

本願は、しおりにライトがついているもの。

特許請求の範囲は、次のものだ。

[請求項1]
 光を発する発光部と、
 本のページの間に挿入されるしおり部を備えるライト付きしおり。

引用発明は、2つ。
引用発明1は、しおり。

引用発明2は、ライト。